ビートルズ啓蒙映画じゃないぞ! イエスタデイ

今回は映画の話です。

 前から密かに観たいと思っていた映画をこの機会に観てやろうと思い、映画「イエスタデイ」! 観てみました!







 イギー・ポップとユアン・マクレガーを全世界に知らしめした!(こともないか) でおなじみ、ダニー・ボイル監督の作品であり、ビートルズの楽曲をフィーチャーした映画と言うことで、公開当時から観たい観たいとは思っていたものの、近くの映画館でやっていなかったこともあり、スルーしていました。

 いやー。観てよかった。全人類、観るべき! と思いましたよ。
 ビートルズの楽曲はもちろん素晴らしいけれども、この映画は、ビートルズってすごいんだぞ~と、ゴリ押しするビートルズ啓蒙映画ではありません。
(僕は音楽聴き始めた頃には、ジョン・レノンはもうこの世にいなかったので、アルバムも聴いたし、好きなんだけど、「ビートルズだけ最高」って感じのお洒落ラブ&ピースおじさんは苦手・・・・・・)
 つまり、この映画、これをきっかけにビートルズを聴きたくなりました!的な種類の映画では決してないんです。(もちろんそういう人もいると思いますが)







コメディとしての面白さ&ワクワク感

序盤のあらすじ
 主人公・ジャックは、教職を辞し、アルバイトしながら歌手を目指すしがないシンガーソングライター。友だち以上恋人未満の幼なじみ・エルにマネージャーをしてもらいながら、小さなフェスに参加したり、小さなバーで歌ったりして暮らしていた。しかし、あるとき世界中が12秒間同時停電。停電のせいで自転車事故に遭ったジャック。目を覚ますと、そこは伝説のバンド「ビートルズ」が存在しなかった世界になっていた。(「イエスタデイ」を歌うと、周囲は「いい歌ね、誰の歌?」って感じになっている。また、ビートルズの影響が強いもの、例えばオアシスやコカ・コーラなどもこの世から消えている)



 ここだけでも、面白くないわけがない!



 案の定、ジャックは記憶の中のビートルズの曲を演奏し、歌手のエド・シーランや敏腕プロデューサーの目に止まり、アメリカに渡って次々に成功を収めていくのですが、その過程が、非常にワクワクするんですよね。ただの音楽好きが、音楽の世界で、ちょっとイカサマだけど、成功していくっていう・・・・・
 この痛快さ、何かというと、まず音楽で食っていきたいけど花を咲かせられない男が成功していくという痛快さ。夢を諦められない男が、かりそめの夢をつかむ痛快さです。そして、もう一つは、「いや!ビートルズの曲はいいんだからそりゃみんなに認められるだろ!」という痛快さです。ジャックが成功していくたびに「ほらね」という感覚になって、とても気持ちがいいんですよね。











 以下、ネタバレ。







普遍的なテーマ性

 前半は、主に「ビートルズの楽曲スゲーだろ」コメディに終始するんですけど、後半、話の中心は、ジャックにとって、歌手としての成功と、自分の本当の理解者であるエルと地元で生活すること、どっちが幸せなんだろう? というところになってきます。


 音楽で全世界の人々を感動させる! という夢。
 小さなときから自分の才能を信じ支えてきたエル(地元で教師をしている)と共に生きること。・・・・・・どちらが幸せなんだろうと、ジャックは悩むわけですね。


 このテーマって、ものすごーく普遍的なテーマだと思うんです。国内外問わず、たくさんの小説や映画に描かれてきたものだと思うんですよ。




真っ先に思い浮かんだ、映画「レスラー」は結論としては「イエスタデイ」の逆のオチがついてます
これはこれで、好き!
(あと個人的に小説「田園の憂鬱」(佐藤春夫)「家」(島崎藤村)も似たテーマの話だと思っています)





 小さい頃から夢見ていた理想、自己実現 VS 愛する人、家族、生活


 この対立関係。どちらを優先するかは個人の選択です。
 
 僕はどちらを取るだろう?






ビートルズのない世界では、ジョン・レノンは生きている

 この映画で最もいいシーンは、ジャックとジョン・レノンが出会うシーンです。

 ビートルズが存在しなければ、ジョン・レノンは生きているんですよね(そりゃそうか)。
 この映画に出てくるジョン・レノンは、漁師をしながら、絵を描いたりして、生活しているようで、妻は亡くなっていますが、最後まで妻を守ることができたようで、普通の人生を普通に謳歌していて、とても幸せそうなんです。
 ジョンに出会ったジャックの「78まで生きたんだ」という言葉には、涙を誘われました。
 音楽的に大成功して死ぬよりも、世間的には成功こそしてないけれど、愛すべき人をしっかりと愛して生きた方が幸せだったんじゃないか? ジョン個人のことを考えたら、スターとして死ぬよりも、普通の人として生きた方が幸せだったんじゃないか?
 そんなことを思わされました。(それでも、スターだったからジョン・レノンは魅力的だったんで、なんとも言えませんが)





結論の意義

 「思うことをやれ」というジョン・レノンの言葉に、ジャックは、歌手としての成功ではなく、地元に帰り、エルと一生を共にすることを選びます。オール・ユー・ニード・イズ・ラブですね。
 ジョン・レノンの言葉で、夢を捨てることを決心する。この意味深さよ。

 夢を追って実現した人がもてはやされる世の中。夢を追わなかった人は敗者なのか? 不幸せなのか?
 そんなことは断じてない。彼らの人生もまた素晴らしい。




 これをまた、自分は夢を追い続けている、あの「トレインスポッティング」のダニー・ボイルが作っているんだからすごいですよね。
 しかも、本編でジョン・レノンを演じているのは「トレインスポッティング」で暴力ひげ野郎、絶対に友だちになりたくない男ナンバー1、ベグビー役のロバート・カーライルだと言うんですから、もう泣かざるをえないですよ。












「トレインスポッティング」ベグビー役 ロバート・カーライル 彼がジョン・レノン役なんて……




 この映画は、この世の中でたくさんいる目の前の愛する人を普通に愛する人を全肯定しているんです。そして、夢を追うことも否定しない。
 ・・・・・・なんて、優しい映画なんでしょうか。
 



 感動の押し売りのような映画は嫌いだけど。
 
 この映画にはストレートに心が温かくなりました。
 
 この、GWに観てみてはどうでしょう?

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